TOP Interview
新たな農学が未来を動かす
これからの時代に求められる人材について、情報農学部(仮称)の教授陣が語る。
Summary
鼎談概要情報農学部(仮称)はテクノロジーと農業が融合した「AgriTech(アグリテック)」を学びの軸とし、農・食・環境分野における課題解決力を養います。ユニークな環境で学んだ学生たちは、いかにして未来の社会をリードしていくのか。情報農学部(仮称)開設準備室の3名の教授が新学部に込めた思いと展望を語り合いました。
開設準備室長
開設準備室副室長
開設準備室副室長
異分野の融合で目指す新しい農学とは
斎藤: 情報農学部(仮称)では、農業を取り巻く社会課題の本質を捉え、最先端テクノロジーを活用しながら解決する力を養います。そのためには、農学にとどまらない幅広い領域からのアプローチが必要です。農学はもちろん、情報工学や社会科学、心理学、法学など多様な専門性を持つ教員が新学部で教鞭をとる予定です。
檀: 未来の農業のための「セレクトショップ」のようなイメージで、多彩な顔ぶれが集まりそうですね。
斎藤: 私たちの専門性を見比べても多岐に渡ります。私の専門は経営工学で、情報テクノロジーを用いた製造現場の業務効率化を研究してきました。情報農学部(仮称)では、ITの力で効率的な農業の実現に取り組みたいと考えています。
檀: 私の専門は神経科学で、ニューロマーケティングと呼ばれる、脳活動や視線解析から消費者の嗜好を可視化する研究を行っています。食品がどのように選ばれ、価値として伝わるのか。人間の認知機能にも踏み込みながら、食品が消費者に届くまでのプロセスを研究するつもりです。
西川: 私は環境学を専門としており、人・動物の健康、環境の健全性は一体であるとする「One Health(ワンヘルス)」の考えのもと、環境水(河川や地下水などの公共の水域)の汚染防止に関して研究してきました。人間の諸活動と水圏・生態系保全の両立について学生たちと探究したいと思います。
これからの農・食・環境分野の社会課題と、解決のために必要なスキルとは
西川: 10、20年後の農・食・環境分野は、数多くの課題に直面する と予想されます。環境分野では、気候変動への適応が喫緊の課題です。現在、気候変動によって生態系は大きく変化しており、クマによる被害が頻出するなど野生動物と人間の共生が脅かされ始めています。また、異常気象による災害や農作物への甚大な影響も生じています。変化する環境に適応していくために、新たな技術を確立しなければなりません。
檀: 食文化に関しては、その継承に目を向ける必要があると感じています。日本の食文化の豊かさや質の高さは世界に誇れるものですが、限られた地域でしか採れない伝統野菜など、地域固有の農産物は手をかけて守らなければ消失してしまいます。生産体制や流通網などの整備が急がれています。
斎藤: さらに農業現場では高齢化による人手不足が深刻になっており、食の安定は当たり前ではないと思わされますね。これらの解決の糸口として挙げられるのが、農業分野のスマート化です。これからの人材には、生産現場のみならず流通現場など多様な場面で、課題に合わせてAIやロボットを活用する力が求められます。特に生産現場での導入において重要なのは、日本の地形や農業形態に合った「日本型スマート農業」の実装です。日本の圃場(注:農作物を栽培する場所のこと。)の多くは入り組んだ地形にあり、そういった環境でも使いやすいセンシング技術やドローンの活用技術を開発しなければなりません。
西川: 未来を予測するためにデータを活用する力も欠かせません。例えば、気象データから豪雨が起こる時期・地域を限定できれば、被害を軽減したり、未然に防げたりします。また、収穫量を事前に把握できれば、出荷量の管理がしやすく、経営の安定化につながるでしょう。どのデータをどう読み解き、未来につなげるかという視点が求められています。もちろん既存のデータ活用に加え、新たなデータを創出する姿勢も大切です。実態が明らかではない課題に対しては、データを収集して状況を解明するところから始めます。その際には、地球規模で課題を捉え、先を見通しながらアプローチする視座の高さが肝要です。
檀: データと聞くとビッグデータを思い浮かべますが、実はそれだけではありません。日本で農作物の品種が次々と開発されるのは、品種ごとの食味や成分をデータ化し、消費者の嗜好と掛け合わせて分析しているからです。ミクロの視点で対象を分析し、高い精度でデータを収集する力は、これからの日本の食品開発力向上に貢献するでしょう。
斎藤: 食品開発力の高さは誇れる反面、シャインマスカットをはじめとした優良品種の海外流出は、大きな経済損失をもたらしています。品種情報という知的財産の保護を支えるのが法的知見です。農業に関する法律は数多くあるにもかかわらず、農業専門の法律家は少ないのが現状。法科に強みを持つ本学で法的素養を身につけた人材が、食品・農産業にまつわる制度設計や、国内外でのビジネス展開を牽引する未来を望んでいます。
情報農学部(仮称)の学びの特長とは
檀: 中央大学が掲げる「実学」をベースに、実践的かつ専門的な学びの環境を整えています。代表的なのが農場実習・研究用の圃場です。多摩キャンパス周辺の起伏のある地形に圃場を作り、1・2年次の実習や研究で用いる予定です。日本の原風景に広がるような圃場を実験台に、教員・学生が主体となってスマート農業や地域を巻き込んだ圃場再生に取り組むことで、「日本型スマート農業」のモデルケースが誕生していくでしょう。
斎藤: 2年生全員が参加する「アグリ・チャレンジ・プログラム」は農業現場を経験する貴重なプログラムです。約6週間、生産者の元で生活し、現場のいろはを学びます。生産の喜びだけでなく、農業のリアルな課題や一から人間関係を構築する難しさに直面するかもしれません。しかし、その経験こそが実社会に基づいた学びや研究の土台となり、さらには他者と協働する人間力の向上にもつながると考えています。
西川: 学びの幅広さも特長の1つです。入学時に専門を定める農学部・学科が多い中で、情報農学部(仮称)では文理の枠を超えた学問に触れられます。ベンチャー企業を立ち上げた経験を持つ教員もおり、専門的なロールモデルがそろっているのも特長。3年次からは、「アグリテック」「フードサイエンス・マネジメント」「環境システム」の3コースで専門分野の学修や研究が始まりますが、科目はコース横断的に履修可能です。例えばアグリテックコースに所属しながら、卒業論文ではフードサイエンスに関して取り組むこともできます。
斎藤: 学生には、農業の道に限らずグローバル企業や国家公務員、起業家など、農・食・環境の未来設計に携わる道に進んでほしい。その願いのもと学びの土壌を耕しています。これからの農業界や社会を活性化し、発展させていきたいという思いがある方は、ぜひ情報農学部(仮称)で学んでみませんか。



